過年分の未払い残業代の一括支給は全額当期に損金算入

〔未払い残業代に係る法人税及び所得税の取扱い〕
社会的に問題となっている違法な長時間労働の解消に向けた取組みとして
現在、労働基準監督署長時間労働が疑われる事業者に対して調査や監督指導を行っている。
また、厚生労働省労働基準法違反で送検された企業の企業名等をHPで公表するなど取組を一層強化しているところだ。

ところで、企業が過年分の未払い残業代を従業員等に対して一括支給した場合、
所得税は一時金(精算金等)として支払われたときは当年分の給与、
過去の実労働時間に基づき過去の給与として支払われたときは過年分の給与として取り扱われる。
法人税については、一時金か過年分の給与であるかに関係なく当期の費用として損金算入されることを改めて確認した。

 

 

 

厚労省 労働基準法違反企業をHPで公表〕
労働基準監督署は現在、1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働が行われた疑いのある事業場や、
長時間労働による過労死などに関する労災請求があった事業場を対象に調査や監督指導を行っている。
平成29年7月26日付の公表資料によると、平成28年4月から平成29年3月までに23,915事業場に監督指導を実施。
うち、10,272事業場で違法な時間外労働を確認した。賃金不払残業があったものは1,478事業場であった。

また、厚生労働省では労働基準関係法令違反を行った企業の企業名や所在地、事案概要等をホームページに掲載。
平成29年7月14日時点で393社が公表されている(厚労省「労働基準関係法令違反に係る公表事案」)。
今後も長時間労働等の是正に向けた取組を積極的に行っていく方針だ。

 

 

所得税は支給形態により取扱いが異なる〕
企業が未払いであった過年分の残業代について“一時金(精算金等)”として支給した場合。
その課税年分は「支給日が定められているものについてはその支給日、支給日が定められていないものについてはその改訂の効力が生じた日」となる(所基通36-9)。

つまり賞与を支給した場合と同様に当期に支給することが確定した給与等に該当する(下図【パターン1】)。
そのため、過年分の所得税額や住民税額について修正する必要がない。
しかし従業員等においては支給を受けた年分の給与が増大することから所得税やその翌年度分の住民税に影響する。

一方、実労働時間に基づき“過年分の給与”として支給した場合。
「本来支給すべきであった支給日の属するそれぞれの年分の給与所得」となる(参考:国税庁タックスアンサー「№2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期Q&A」)(下図【パターン2】)。
この場合、源泉徴収義務者は残業代を支給した時点で過年分の年末調整計算をやり直し、納付不足となっていた税額を支給した時の翌月10日までに納付する必要がある。
また、源泉徴収票の出し直しに加えて特別徴収義務者として給与支払報告書を訂正して各自治体へ再提出しなければならない。

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法人税法上は残業代の支払時に損金算入〕
法人税の取扱いは残業代の支給形態に関係なく支給した期の費用として損金算入される。
残業代は過去の労働に基因するものであるが、支給額の決定が当期であることからすると当期に債務が確定しているといえるためだ(法法22)。
また、通則法23条では申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと、
又は計算に誤りがあったことにより申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは更正の請求の対象となるとしているが、
過年分の残業代の未払いはこれらのいずれにも該当しない。
そのため更正の請求の対象となる余地もない。

 

 

社会保険料の過不足は賞与と同様の処理が一般的〕
ちなみに、残業代の未払いにより過年分の社会保険料に過不足があった場合はこちらの修正も必要だ。
一般的に未払い残業代を一括で支給した場合、賞与を支給した場合と同様に処理することが多いようだ。
賞与と同様の処理であれば事業者の事務負担にはならない点に加え、
保険料の納付には「2年」の時効があり、3年以上前の期間に係る保険料は納められない仕組みとなっているためだ。
3年以上前の期間に係る保険料が過不足であると将来受け取る年金額に影響がある。

 


〔まとめ〕
・未払い残業代について支給形態により所得税社会保険料の取扱いが変わる。

法人税法上は支給形態にかかわらず支給した年に損金算入する。

 


〔ちなみに〕
そもそも在ってはならない事なのですが、残業代が未払いとなっているケースは多々あります。
企業や事業者側から後になってでも支給の旨を従業者に伝えてもらえたらトラブルになることも減らせると思うのですが。
以前、ある会社が裁判になり未払い残業代の支給を行いました。
従業員が最大限自分の利益を追求した結果(従業員が会社に不満を持っていることも原因の一つですが)、
会社側が希望する一時金(精算金)としての支給を拒否し、過去分の給与として支給を受けました。
そのため会社は過去の給与業務に係る訂正作業が必要となりました。従業員からすれば一杯食わせたような思いはあったと思います。
そんなことがないように、ちゃんと労働への対価を払うのが普通なのですが、
厚生労働省が労基違反で公表したのが393社・・・。
まだまだ問題解決への道は遠いようですね。